応援コラム

「社員は家族です」という甘えについて

 

「この前入社した社員には期待していたんですがね…。3か月もしないうちに辞めてしまいましたよ。“私は社長の期待に応えられません”と言われました。」…と。

 

先日、オンラインでご相談を頂いた社長の第一声です。かなり仕事には厳しい社長なのですが、社員をまるで家族のように大切にし、営業に同行したり、一緒に食事に行ったり、ミーティングもこまめに行っているそうです。

 

社員の立場からすると、「上司から期待されている」ということは、それだけ自分を評価してもらっていると感じられ、嬉しい気持ちややりがいにつながりますが、行き過ぎた期待は逆にプレッシャーになってしまいます。特に、自分ができると思える限度を遥かに超えた期待は、もはやプレッシャーというストレス以外の何ものでもありません。

 

私たちは、無意識のうちに相手に対して理想的な態度や資質を期待しまうものですし、それに満足できなかった場合、ついだめ出しをしてしまうものです。入社したばかり、出会ったばかりの相手、力量や性格も深く理解できていない相手に、何の根拠もなく過大な期待を抱いてしまう生き物なのです。

 

このような過剰な期待をしてはダメだと頭ではわかっているものの、ついついやってしまうこの失敗。この原因の一つに、「思い込み」があると言われています。今週のコラムは、「思い込み」がもたらす社内の関係性崩壊について書いてみたいと思います。

 

「思い込み」とは…これだけ指導しているんだからもっと頑張るべきだ、とか、これだけ環境が整っているんだからもっとできるはずだ、という上司側の思い込みもあれば、自分は新人なんだからもっと丁寧にわかりやすく教えてくれるべきだ、とか、部下が成果を出せるようにするのは上司の責任だ、といった部下側の思い込みもあります。いずれも、「こうあるべき」「こうあらねばならない」といった断定的な思い込みが強く影響しています。

 

以前、ある会社でクレームの電話が入った時のことです。

 

直属の上司は、

「大変申し訳ございません。すぐに対処いたします。」

とお客様に謝罪した後、社内でその原因を探り、次に失敗しないためにはどうすれば良いか?と皆で話し合う場を設けました。

 

しかし、その上の上司がクレームのことを耳にすると、

「誰がやったんだ!?ここへ連れて来い!」

ともの凄い剣幕で怒り、懇々とお説教が続いたそうです。

 

前者の上司はクレームに対して決して甘く考えたわけではなく、しっかりと反省はしつつも、きちんと改善策を模索したのですが、後者の上司は、そもそもクレームなんてあってはならない!という考えの持ち主だったため、その原因をつくった人に対して憤りを感じるタイプの人間だったのです。クレームの内容は同じですが、受け止め方が違うと、その後の態度もここまで違ってしまうという事例です。

 

確かに、お客様を怒らせてしまうようなクレームはあってはならないことなのですが、既に起きてしまったことは仕方がない、今後どうするか?を考えることが大切です。そして、同じ過ちを繰り返さないように対策をすることが最も重要なのです。

 

先ほどのお説教を続けた上司は、きっと責任感が強い人だったのでしょう。お客様に不快な思いをさせないように…と考えたのかもしれません。もしかすると自分に責任が及ぶのを警戒したのかもしれませんが…。

 

このような、「クレームはあってはならない」とか、「失敗は許されない」という強い思い込みを、例えば社長が持ってしまっている場合、それは、部下との関係を崩してしまうだけではなく、会社の経営までも脅かしてしまう可能性があることを社長は心得ておかなければなりません。

 

大企業のように大勢の社員がいる会社ならともかく、社長の顔が見える中小企業では、社長の考え方が経営に大きくかかわります。柔軟な思考回路の持ち主であれば、新しいアイディアや異なる意見も積極的に聞き入れることができますが、「自分が一番だ」と思ってしまっている社長の場合、部下から違う考えや意見が上がってきても、「自分が正しい(自分がやってきたことこそが正しい)」と強く思い込んでいるため、聞き入れようとしません。その結果、誰も社長にはモノを言わない…イエスマンばかりが社内にあふれるからです。

 

この思い込みの影響は、日頃のコミュニケーションだけにはとどまりません。

 

来年の事業計画を考える時、人の採用を考える時、新たな商品開発を検討する時、社員の教育や営業体制を強化しようとする時など、いつでもその基準になるものが「社長の頭の中にあるものさし」だからです。

 

今までこれでうまく行った、これまでこのやり方でやってきた、過去にこんな経験がある…という社長のものさしが勝手な思い込みを生んでいるケースが往々にしてあるものです。そして、一番厄介なのが「社員への甘え」です。お客様にはもの凄く気を遣うのに、社員には気を遣わない…身内になった途端に「言わなくてもわかるだろう…」という甘えが出る、というワケです。(お給料を払って雇ってやっているという気持ちも無意識のうちに働いてしまうのかもしれません)

 

時代は令和、これからの日本をつくるのも、今の会社を支えてくれるのも、その中心となるのは若い人材です。彼らの考えや価値観を柔軟に受け入れることこそが会社の未来をつくるのです。

 

そろそろ来年の計画が気になる頃、新たな発想で事業構想を練りたいとお考えの方は、ぜひご相談ください。社内に第三者の視点を入れることは、新しい風を吹かせるきっかけになりますよ。

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