「吉澤先生はよく人を褒めていらっしゃいますが、恥ずかしくないですか?」
これは顧問先企業の社長様の口から飛び出したビックリ発言です。
私は日頃から相手の言葉やその人自身を肯定的に受け止め、よく観察するようにしていますが、取り立てて何かを特別に褒めようと意識をしたり、褒めるという行為が恥ずかしいことだと思ったり・・・そんなことを考えたことはありませんでしたのでとても驚きました。
経営者という立場にあると、他人から褒められる(実際にはお世辞であることも多い・・・)機会や、顧客に対して褒める(これも「取引をしてもらっている」という意識からつい上手を言ってしまっているかも・・・)ということも少なくはないでしょう。そんなことはない!という声も聞こえてきそうですが、多くの経営者は経験のあるところだと思います。こういった現状から、『褒める』ということに対して抵抗を感じる経営者も少なくありません。
しかし、そもそも「褒める」とは、他人の優れた行いを評価し讃えるという意味です。心の底から相手を褒めようとすれば、相手の優れた能力に気付き、その価値を判断し、認め、讃える力が求められます。
取引先との商談の場において、本気でこの力を意識している人がどれだけいるでしょうか。毎月のノルマに追われる営業マンや、目の前の大口契約に前のめりになる事業部長、より収益の高い新規事業に心躍る経営者など・・・誰しも売上や収益に囚われている時には、目の前の相手に心から注意をはらいその価値に気付くことは意外とできていないものです。
ただ、商談相手の立場になって考えてみればすぐに気付くことですが、自社が大切にこだわっていることや苦労して出した実績、未来に向けた新たな動きなど・・・自分達の歩みや成長、志に気付いてくれない相手など取引の対象になるはずもありません。見た目や規模の大きさ、ネームバリューだけで判断し、上辺だけの美辞麗句を並べてみても全く心に響かないのです。その企業と本気で取引を考えるのであれば、まずは相手の本当に優れたところはどこか、その価値はどれだけのものか、その方向性や将来性はどうかをしっかりと見つめることが第一で、その上で自然に口をついて出てくる言葉こそが最高の褒め言葉であり、そうであって初めて取引の対象となるのではないでしょうか。
「褒める」とは、世辞を言うことでもなければおだてることでもありません。
自社の強みを売り込むことを考える前に、相手の本質を見つめ、心から讃えることができる・・・そんな営業も素敵だと思いませんか。