応援コラム

顧客に言ってはならない“そのひと言”

「今年入った営業マン、前職は医療関係のトップセールスだったらしいんですが、業種が違うせいか、なかなかウチでは腕前を発揮してくれないんですよね…。時間管理や営業トークもバッチリで、見るからに売れそうなんですけどね。」

 

先日、経営者向けのセミナーに参加した後の懇親会でご一緒した社長様のお話しです。今後は営業に力を入れて行こうと経験者を採用されたそうですが、思ったほど結果が出ず困っていらっしゃるようでした。同じ営業職と言っても、前職はお医者さんが相手の営業、現在は高齢世帯向けのリフォームが主な仕事で、提案する商材や相手が大きく違うことがその要因なのかもしれません。その後、その社長様からご相談をいただき、会社に出向いて彼の営業に同行することになったのですが、そこで耳にした驚くべきひと言!…このせいでなかなか契約に結びつかなかったんだろうな~と思った出来事がありました。

 

どのような業種であっても、営業マンに求められるものにそう大きな違いは無く、

 

(1)相手への気配りと自然なマナー・身だしなみ

(2)自社の強みや自分の持ち味を伝えるアピール力

(3)顧客を深く理解するヒアリング力

(4)商品・サービスの提案力

 

そして…

 

(5)顧客を理想に導く課題解決力

 

などが主なものです。

 

我々が商品やサービスを販売する目的は、常に顧客の課題解決に最大限の貢献をすることであり、そのための商品提案力(そもそもの“商品力”は言うまでもありませんが…)や、何を求めているのか?を把握・整理し、適切な商品を選定する力が重要なポイントとなります。しかし、間違ってはならないのが、それらのスキルは「顧客との信頼関係が成り立っている」という大前提の下になければ十分な力を発揮することが難しいということ、決してスキルが優先されるものであってはならないのです。

 

私自身、会社を経営するようになってから多くの営業を受けるようになりましたが、中にはどうにも残念な営業が多く存在しました。とにかく一方的に話し続ける人や、やたらゆっくりと間延びしたような話し方の人、それから、こちらの質問に対し的外れな回答をする人などです。これらの営業マンと話していて思うことは?と言えば、

 

「このまま契約をしたら、ずっとこんな関係が続くのかしら…?」

 

ということ。うまく会話(コミュニケーション)が成立しない相手と、この先もずっとこの関係が続くと思えば、それは商品力や提案力以前の問題であることは明らかです。それでは、先ほどの同行した営業マンは、目前の顧客に対しどのようなひと言を放ったのでしょうか?それは…

 

「さっきも言いましたケド…」

 

です。たったこのひと言ですが、それまでニコニコ聞いてくれていた相手のおばあちゃんの表情が一気に曇ったのが私には見えました。しかし、プレゼン資料や写真にばかり気を取られ、これがいかに素晴らしい提案なのかを懸命に話す彼にはおばあちゃんの顔は見えていなかったのです。ドクターを相手にしていた以前の営業であれば、専門用語を連発する格好良いトークも通用したでしょうが、難しい言葉や早口で話す彼の言葉は少し耳が遠くなったおばあちゃんには分かり辛かったのでしょう。「これの違いがよくわからんのですが…」と小さな声で質問したのに対し、「さっきも言いましたケド…」と強い口調で同じ説明を繰り返したのでした。

 

営業が「モノ売り」だと思っている間は、誰しもついこのような失敗を繰り返します。何度も申し上げますが、営業の役割とは「顧客を理想に導く課題解決のお手伝い」です。決して自分が言いたいコトを上手に話し、相手を説き伏せたり言いくるめたりすることではありません。

 

経営者の皆さま。御社の営業マンは顧客の前でどんな顔を見せているのか…ご存知ですか?自分達の役割・求められているものを理解できていますか?社内で、営業数字だけを評価・指導していませんか?売れない原因はその人個人の性格や力量のせいにしてしまっていませんか?会社の顔として営業に行かせるための教育や環境を整えるのは経営者の役割です。お客様は、こちらが思っている何倍も、いや何十倍も敏感にこちらの態度や姿勢をよく見て感じているんですよ。

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