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「保有」と「移転」…リスクファイナンシングの考え方で仕事を整理する

 

損害保険の法人営業をしていた時によく出てきた言葉の一つに「リスクファイナンシング」があります。リスクファイナンシングとは、自然災害や事故などの大きな損害があった場合に、その損失補填に備えた資金繰りの方法のことです。リスクファイナンシングには大きく分けて「保有」と「移転」があります。「保有」とは、自ら損失を負担するもので、代表的なものに「自家保険」があります。一方「移転」とは、契約によって第三者に損失を負担してもらうもので、多くの人は「保険」を活用しています。

 

会社を経営していると、本当に様々なリスクが想定され、全てに対応することは不可能ですが、可能な限りリスクを最小限に抑えて万一の場合にも早期に立て直すための備えをしておくことは非常に重要です。特にこの近年、自然災害が急激に増加しており、社内の蓄えだけでは会社の立て直しが難しいケースも多くなってきています。しかし当時は、その重要さを理解してくれる人がまだまだ少なく、「保険は入ってるから結構です」なんて簡単に断られたものです…。

 

まあ、それはさておき。

 

リスクの捉え方や資金繰りの考え方はそのまま「仕事の整理」にも通じる部分が多く、今回のコラムはそんな切り口で書いてみようと思います。コロナ以降、仕事が増えた(減った)、顧客から求められるもの(又はこちらが求めるもの)が変わった、オンライン化など社内の体制が変わった…等、今まさに変化の時を迎えている会社は多いでしょうし、それに合わせてやり方や考え方を変化させていかなければならない会社も多いと思います。社内や個人の仕事の整理の仕方や考え方について、何かご参考にして頂ければ幸いです。

 

話はリスクファイナンシングの「保有」に戻します。

 

例えば、運送会社やバス会社などは、1社で数十台以上の車を保有していることがあります。すると、自動車保険の保険料だけでも莫大な金額になってしまいます。多数割引やフリート契約という方法もありますが、それでも台数が増えるごとに保険料の負担が増えてしまうことに変わりはありません。そういう負担を減らすため、任意保険に加入しないで自社で負担する会社も多くあります。社内で一定額のお金を貯めておき、それを万一の損害時の支払いに充てるという考え方です。これが「自家保険」といわれ、リスクの保有の代表格です。「保険」という名前はついていますが、社内で積み立てた積立金を使うという会社がほとんどで、保険とは本質的に異なります。

 

一方で、「移転」とは第三者に損失を負担してもらう…正に保険がそれにあたります。一定の保険料を納めることで、万一の災害時や事故時に補償をしてくれるものです。その補償内容や補償金額をどこまで求めるか?によって保険料が大きく違ってきます。当然、手厚い補償を求めれば保険料は高額になるし、保険料を安くしたいと思えば補償をある程度に抑える必要があります。基本的な考え方は自家保険も同じです。いくらまでなら負担できる(負担する)のか?いくら以上は厳しいのか?…どこまで保有し、どこから先を移転するのか?その判断が一番難しいところです。

 

その判断が適切でないと、過剰な補償に入る(余分な保険料を支払う)ことになったり、反対に、いざという時に役に立たなかったり、ということになります。リスクの捉え方や感じ方は人それぞれですが、一般的に、日本人の多くは「リスク」を嫌う国民だ、などと言われ極端に恐れる人が多いと感じています。

 

これを「仕事」で考えた場合にも同じことが言えそうです。

 

例えば社内の役割分担。

 

「どこまで自分がやって、どこから先を部下や後輩に任せるのか?その線引きが苦手な幹部」

 

「どこまで社内(自分)でやって、どこから外注に出すのか?その判断や責任の所在が不明瞭な組織」

 

…など、皆様の中にも心当たりのある方はいらっしゃいませんか?

 

「自分の仕事は最後まで責任を持って!」と厳しく指導をしている割には、途中でちょこちょこ口を挟んで横槍を入れる上司や、反対に、「信頼している」という口実の下に放任しているだけで責任の所在がハッキリしない仕事のやり方が続く組織、外部に仕事を依頼したにも関わらず細かく口出しする人など…線引きが苦手な人は意外と多いようです。

 

保険の営業現場では、よく「保険は難しいから分かりません」と言われたのですが、保険商品そのものの理解の前に、自社のことが分かっていない方が本当に多くいらっしゃいました。自社の現状が分からない、進む方向がはっきりしていない、在りたい姿が明確でない…まるでスタート地点も目指すもゴールも分からない状態で乗り物を選ぶようなものなのです。

 

まずやるべきことは己を知ることです。自社の現状(会社の実力や実績)と向かうべき未来(在りたい姿)・社員の現状とあるべき姿をきちんと可視化すること。そして具体的な行動を決定(決断)することです。

 

そして最後にひとつ。

 

決断する時に必要なものさしに「リスク許容度」があります。個人で資産運用をされる方なら耳馴染みがある言葉だと思いますが、リスク許容度とは、「どれくらい投資元本がマイナスとなっても生活に影響がないか」「どれくらいまでなら投資元本がマイナスとなっても気持ち的に耐えられるか」というものです。

 

どれくらいならお金が減っても大丈夫か?

何の仕事なら他人に任せても信用できるのか?

どこまでなら部下の失敗を許容できるのか?

 

この線引きがハッキリしないまま、上辺だけ外注に出したり仕事を整理したり部下に任せたりすると後が大変です。外部のリスクを分析する前に、自分自身がどれだけリスクを許容できるか?を一度考えてみられると良いかもしれませんね。

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