応援コラム

「社員が奮い立つモノ」を次の世代に残せるか?

 

以前、ある社長の事業承継に関するFP相談を受けたことがあり、その会社が無事に世代交代をされたらしい、というニュースを耳にしたところに、ちょうど昨日の日経新聞の一面の記事が「御社の存在意義 何ですか?」でした。そう言えば、あの頃、会社の存在意義とか存在価値とか、使命って何?…なんて、随分社長とやり取りしたな~と思い出しました。

 

事業承継のFP相談というと、とかく相続に関する税金や自社株、保険活用方法について…というイメージが先行しますが、実際の相談の現場では、そういった実務的な話が出てくるのはずっと最後の方です。もう後継者も決まって、バトンタッチのタイミングや、それに向けた様々な計画が明確になる中で、付随する問題として出てくるのが税金や保険という感じです。

 

それよりも、そもそも承継を誰にするのか?いつのタイミングが良いのか?考えるべきことは何があるのか?と言った前準備の期間が最も重要で、それがなるべく早めに、スムーズに行われることが「良い承継」につながると言われています。

 

当時、私にご相談があった案件はざっくりこうです。

 

社長ご夫婦は共に60代半ばで、お子さんは2人とも嫁に出してしまい、後継者は社員の中から選ばなければならないが、どうしようか検討中という段階でした。そもそも何から考えれば良いのか?色々な方に相談している段階…とのことでした。事業承継は、様々な課題が出てくることが多く、横の連携が取れることもスムーズに進めるポイントとなります。私も普段から各分野の専門家と連携して仕事をするケースが多く、保険時代は労災問題に強い弁護士や就業規則に詳しい社労士・リスクマネジメントのプロと、FP時代には、弁護士・税理士・不動産業者・金融機関など、コンサルタントとなった今は各分野の専門コンサルタントの先生や海外ルートの専門家との連携を取って仕事をしています。自分一人ではできることが限定的ですが、信頼できるパートナーと進められることで、お客様にも安心してもらうことができるのです。

 

事業承継には様々なパターンがありますが、例えば、

①親族内で承継する場合、

また、

②親族内に適切な人材がいないため会社に長年勤務している従業員などに承継する場合、

また、

③いずれにも適任者がおらずM&Aを検討する場合

などがあります。

①や②の場合、その後の後継者の育成をどのように行なうか?や、経営課題の改善にどう取り組むか?が大きな課題となります。

 

多くの中小企業が、社長の力量や人徳・人脈でここまで発展させてきたというパターンがほとんどで、社長が交代することによる影響は見えないところでジワリジワリと出てくるものです。経営課題も、承継を検討した時点ではあまり気にならなかった事も、後々大きな問題になることも。例えば、売上の大半を占めている大口取引先との関係性や現在の営業体制をどのようにするか?といった問題。

 

一見、これまでのやり方を継続すれば良さそうな事も、社長交代によって付き合い方・やり方が大きく変わることがあります。実際に、先ほどの会社でもやり方を大きく転換する必要性が出てきました。現社長の存在や取引先との関係は思った以上に強く、社長交代を機に条件の変更が持ち出されたり、契約が打ち切られたり…ということも珍しくありません。また、長年勤めて来たベテラン社員が辞めてしまう、他社への転職を決断する…という社員が出てきたりするものです。このような状況になってみると、「人は目に見えない何かに惹かれてそこにいた」ということがよく分かります。

 

待遇が好条件だから、働く環境が良いから…そこで働いていたとか、納期が早いから、値段が安いから…取り引きしていただけわけでは無いことが思い知らされたりします。

 

さて、冒頭の「御社の存在意義…」という新聞の話題に戻りますが、記事によりますと、

 

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アンケートは、今年8月、東京・有楽町を歩く会社員100人を対象に行い、勤務先が明文化したパーパスやビジョンを「言える」と答えたのは63人と過半に達した。環境サービスで働く50代の男性は数年前の転職時を振り返って、「理念に共感したからこそ入社を決めた」と回答。一方、生命保険会社に勤める20代の男性は完璧に覚えているのに「具体的に目指す姿が分からず全く共感していない」と退職を決めた…。

 

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とありました。

理念に共有して入退社を決める…そういう時代なのだそうです。これは、昔から大切にされてきたことなのでしょうが、ここへ来て大きく注目されているのは、海外で声高に叫ばれているから…のようです。

 

確かに、「収益優先」「効率優先」の会社が次々に不祥事を起こしたり組織に綻びが目立ったりしている中、働く側の従業員にとっても職場は慎重に選びたいもの…改めて「会社の存在意義」について考えるのも頷けます。

 

昔、事業承継の話し合いの場に同席した時、私が印象に残ったのは、

「今のやり方を続けていても、社員が笑顔になるとは思えません。」

と言った息子さん(後継者候補)の言葉です。

 

毎日毎日遅くまで残業して、「ミスを無くせ」「効率を上げろ」「今月の売上目標が…」と言い続けられて働く社員達の行き場の無い気持ちが痛いほど分かる…仕事のやり方・考え方、取引先を変えていかなければみんないなくなってしまうのではないか?…そうおしゃいました。「この会社で働くことの喜びや、未来への希望を、小さくてもいいから何か彼らに感じさせてあげたい」と。

 

これを話し合う場が、「会社の存在意義」を明確にするきっかけにつながり、事業のバトンタッチの入口なのかもしれない、当時の私はそう思いました。

 

そして今。

社長や後継者、幹部の皆さんと一緒にストーリーブックを作成する意味はここにあります。

自分達の会社は何のために存在するのか?それは社会にとってどんな意味を持つのか?自分達の会社はどこを目指して行くべきなのか?

…それを明確にしていくことこそ、今の会社を未来につないで行くことだと確信しています。

 

「社員が奮い立つモノ」…自社のそんな未来や希望を次の世代に残せるか?社長がバトンタッチをする時の一番の宿題ではないでしょうか。

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